設立趣意書

特定非営利活動法人「温故創新の会」設立趣旨書

わが国の高度成長を支えてきた団塊世代の大量退職、いわゆる2007 年問題がわが国の深刻な社会問題となっている。それは、人材だけでなく、長年掛けて蓄え発揮して企業、産業、そして国を支えてきた技術やノウハウが同時に消失してしまうからである。

一度消失した技術を取り戻すことは極めて難しい。団塊世代以前の技術者(旧世代)、全体計画を把握し、各工程を一つづつ手仕事で処理しながら経験を重ね、それを知識・知恵、技術・ノウハウなどに変えてきた。一方、最近の技術者(新世代)は、充実したソフトウエアとコンピュータ技術を駆使して、迅速に結果を得ることを業務遂行の基本としている。この技術との関わりの両面は、両方揃えば相乗効果をもたらすが、一方が欠けると質の低下や空洞化を招く。空洞化が産業界全体に拡がると、経済が停滞し、国際競争力が低下することになる。企業や産業はこの危険性を認識してはいるが、バブル崩壊以降、リストラや非定期雇用などで経営危機を凌いだため、その対応に十分な人材、時間、あるいは資金を投入できないジレンマに陥っている。
科学技術創造立国を標榜するわが国としては、いつの時代にあっても、旧世代が蓄えた技術が新世代の技術者に確実に継承され、人材が適正に育つ仕組みが不可欠である。

また、両世代の技術が融合し、新たな知を創造する姿は理想である。特に社会基盤施設(インフラストラクチャー)の場合、施設やシステムの品質が、美しい国土の形成や安全・安心で快適な生活の保証となるため、技術の継承と人材の確保・育成は国是に近い責務と言える。技術は志の高い者同士の切磋琢磨で開発され高度化する。また、人材は本人の努力と学習風土が育てる。したがって、国家という大局観に立てば、産業毎に経験豊富な先輩が、技術の継承と人材育成のシステムをつくり、ボランティア精神を発揮して社会に貢献する姿が望まれる。このシステムつくりが様々な分野で始まれば、21世紀を再チャレンジ可能な活力のある社会とすることも可能となる。生活に直結する社会基盤施設の整備保全に携わる技術者には、工学技術に加え、文化、福祉、教育、環境など幅広い知識と、それを公益に活かせる高い見識が必要である。

したがって、技術や知恵を継承する場合には、関係者間の信頼関係が極めて重要な要素となる。公益の重視、信頼の醸成という観点に立った場合、公的に認められた団体を組織して活動することは極めて重要なことで、社会的な信用の確保、優秀な人材の参画、技術継承者への安心感の付与、そして組織構成員の責任意識の醸成がより図り易くなる。このような認識のもと、主に社会基盤(インフラ)整備分野を中心に、業務の第一線を退いた技術者が中核となって、自ら保有する知識・技術・ノウハウを、次世代に継承・指導・普及する事業などを通じて、人づくり、まちづくり、環境保全、国際協力、科学技術の振興等に寄与することを目的に、特定非営利活動法人温故創新の会を設立するものである。

平成18年8月29日

代表者住所東京都府中市押立町5丁目13番地の49

氏名 清野茂次